キャベツと深蒸し麺、老舗喫茶の原点の味わい/塩崎省吾さん推し「デンキヤホール」
文・写真 熊谷真菜(日本コナモン協会)
今回のやきそばの達人は、焼きそば名店探訪録の塩崎省吾さん。
名著『ソース焼きそばの謎』を出された達人のなかの達人が推す麺とは!
めちゃくちゃ気になります。
塩崎さんと向かったのは、観光客でにぎわう浅草、浅草寺から歩いて5分ほどの千束通り商店街、超老舗の名店喫茶、デンキヤホールさん。
電気関連のお仕事をされてた杉平寅造さんが1903(明治36)年に創業。
おそらく当時は電気というだけで、キラキラの最先端、輝けるイメージだったことでしょう。その屋号のまま、三代目さんが変わらぬ雰囲気でお店を継承されています。
往年のお写真を拝見すると、和風の店構え、店員さんのユニフォームも愛らしく、時代の流れを感じます。
まずはこちらの名物「ゆであずき」!
江戸期から下町で食べられていたという「ゆであずき」が看板として人気を呼び、温も冷やしもあるのが嬉しい。何より、あずきの皮がとろけるようで、甘みも濃すぎず薄すぎず、これを頂けるだけでも来た甲斐があります!
そしてやきそば!
三代目夫人の杉平淑江さんは、創業した祖父から「大正時代の初期からオムマキを提供し始めた」と伝えられています。塩崎さんは、「その伝承がもし本当なら、現存する最古のソースやきそばではないか」と考え、様々な資料を調査して『ソース焼きそばの謎』という一冊を書き上げました。塩崎さんにとってデンキヤホールのやきそばは、ソースやきそばの起源に大きく関わる重要な一皿なのだそうです。
推し麺ポイント
楕円のステンレスで出てきた深蒸し麺のやきそば、なんと具材はキャベツのみ。
甘みと旨みがちょうど良いのは、キャベツとソース、麺のバランスが完璧だからなんでしょう。
しっかりした歯ごたえの麺をかむと、香ばしさもあり、小麦の味も感じられるまろやかな優しい味わい。
オムマキは、誰もが大好きなオムソバの原型。
黄色も鮮やかで薄焼き卵が美しく流線形を描きます。オムソバの由来も気になるところですが、「オムマキ」というメニュー名をもっと使っていけたらと思うのでした。
それにしても二度蒸し麺の感触は、ゆで麺主流の関西ではほとんどないので、テンションあがります。
塩崎さんが愛する「デンキヤホール」さんは、おいしく頂きながら、歴史まで味わえる、居心地の良すぎる食文化の殿堂のような有難い空間でした。
デンキヤホール
〒111-0032 東京都台東区浅草4-20-3
TEL.03-3875-2987
やきそばの達人/塩崎省吾さんのProfile
昭和45年生まれ。静岡県出身。
ハヤカワ新書『ソース焼きそばの謎』著者。
ブログ「焼きそば名店探訪録」主宰。
本業はITエンジニア。